対談シリーズ【第1回】 若手獣医師に聞く動物病院業界のリアル
動物病院業界への就職を希望する獣医学生にとって、内定をもらうだけであれば他の業界と比べて就職活動はさほど難しくありません。
しかし、卒業後、動物病院の獣医師としてキャリアをスタートした獣医師のなかには、数年で動物病院業界を離れ他業種へ転職してしまう方も少なくないようです。
ほとんどの学生が犬猫の獣医師を目指して獣医大学に入学するのに、大学では「勤務医は給料が安くて食べていけない。だからといって開業しても競争が厳しい」などネガティブな情報が教えられ、動物病院業界への就職自体を辞めてしまう学生も多いと聞きます。
でははたして、動物病院業界の未来は本当に暗いのでしょうか? また、どのように動けば動物病院業界で長く働けるのでしょう? 獣医学生が就職活動で気を付けるポイントはなんでしょうか?
本シリーズでは、動物病院業界への就職活動に不安や疑問を抱く獣医学生の参考になれば思い、2名の若手獣医師に実際に働いて感じることや、学生に伝えたいことなどお話を伺いました。
しかし、卒業後、動物病院の獣医師としてキャリアをスタートした獣医師のなかには、数年で動物病院業界を離れ他業種へ転職してしまう方も少なくないようです。
ほとんどの学生が犬猫の獣医師を目指して獣医大学に入学するのに、大学では「勤務医は給料が安くて食べていけない。だからといって開業しても競争が厳しい」などネガティブな情報が教えられ、動物病院業界への就職自体を辞めてしまう学生も多いと聞きます。
でははたして、動物病院業界の未来は本当に暗いのでしょうか? また、どのように動けば動物病院業界で長く働けるのでしょう? 獣医学生が就職活動で気を付けるポイントはなんでしょうか?
本シリーズでは、動物病院業界への就職活動に不安や疑問を抱く獣医学生の参考になれば思い、2名の若手獣医師に実際に働いて感じることや、学生に伝えたいことなどお話を伺いました。
■A先生
2020 年に酪農学園大学を卒業後、京都府内の 1.5 次病院に就職。予防などの 0.5 次診療から橈尺骨骨折整復術などの手術など、幅広く獣医療を経験後、上京し現在は都内の1次病院にて分院長を務める。獣医師として小動物臨床に従事する傍ら web ライターなど様々な仕事の経験も。
■B先生
2015 年に大阪府立大学卒業後、大阪府内の 1 次動物病院に就職。その後、岐阜大学大学院博士課程へと進学し、神経疾患を専門に研究と二次診療を両立して行う。現在は神経疾患についてさらに深く研究を行うためアメリカに留学中。臨床と研究の二刀流を目指して、日々勉強に励んでいる。
2020 年に酪農学園大学を卒業後、京都府内の 1.5 次病院に就職。予防などの 0.5 次診療から橈尺骨骨折整復術などの手術など、幅広く獣医療を経験後、上京し現在は都内の1次病院にて分院長を務める。獣医師として小動物臨床に従事する傍ら web ライターなど様々な仕事の経験も。
■B先生
2015 年に大阪府立大学卒業後、大阪府内の 1 次動物病院に就職。その後、岐阜大学大学院博士課程へと進学し、神経疾患を専門に研究と二次診療を両立して行う。現在は神経疾患についてさらに深く研究を行うためアメリカに留学中。臨床と研究の二刀流を目指して、日々勉強に励んでいる。
動物病院業界の売上は上がっている
西川:今日はお忙しいなかお時間いただきありがとうございます。ベテリナリオは就活実習ツアーを通して獣医学生の就職活動をサポートさせていただいているのですが、彼らと面談をするなかで、犬猫の動物病院の獣医師になりたくて獣医学科に入ったのに、入学後に業界に対するネガティブな情報を突きつけられ、動物病院業界への就職を辞めてしまう学生が割と多いという話をよく聞きますした。
しかし、数字だけを見れば、犬猫の飼育頭数が減ってきているなかで、業界全体の売上は 10 年前が年間 3,000 億円だったのに対して直近だと 5,000 億円と増えており、他業種からも“これから伸びる業界”との認識されから、人材紹介会社や保険会社などが続々と新規参入している状況です。お二人や、周りの動物病院で働いている獣医師の先生方から見て、動物病院業界が盛り上がっている、売り上げが上がっているという感覚はありますか?
しかし、数字だけを見れば、犬猫の飼育頭数が減ってきているなかで、業界全体の売上は 10 年前が年間 3,000 億円だったのに対して直近だと 5,000 億円と増えており、他業種からも“これから伸びる業界”との認識されから、人材紹介会社や保険会社などが続々と新規参入している状況です。お二人や、周りの動物病院で働いている獣医師の先生方から見て、動物病院業界が盛り上がっている、売り上げが上がっているという感覚はありますか?
A先生:売上などの数値はよくわかりませんが、私たちに入ってくる情報は犬猫の飼育頭数が減っているなかで動物病院は増えていることにフォーカスされているものが多く、開業したところで食べていけるのかという不安を強く感じている獣医師が多い印象です。実際に、経済面から「動物病院の獣医師は生涯続けられる職業なのか?」と考える獣医師も少なくありません。
B先生:儲かっていそうな動物病院は見ますが、それが勤務医の給料に還元されているかというとそうではなさそうです。先日、大学院時代の後輩の若手獣医師から話を聞く機会があったのですが、卒業後2〜3年くらいの獣医師たちが驚くほどの低賃金で働いていて。そういった給与面での不安が、獣医師が動物病院業界から離れてしまう原因の1つではないかと思います。
西川:一般企業に長くいた私からすると、卒業から4〜5年で開業できるということは、開業してうまくいけば30歳前後で年収1,500万円を達成できるという夢のある業界だと思うんですけどね。確かにリスクもありますが、それ以上にチャンスのある業界なのに、現場にいる獣医師や学生さんはその魅力にあまり気づいていないように思うのですが。
A先生:動物病院の獣医師の就職活動は圧倒的に売り手市場で、一般的な大学生と比べて就職活動が楽。それゆえ、他の業界についての知識がほとんどないというか、知りたいとすら思っていなさそうですよね。特に学生のうちはお金よりもスキルアップを重視する人が多いので、余計に他業種と比べて経済的にどうかということに興味が湧かないのかもしれません。経済面で他の業界と比較した客観的なデータがあれば、学校の先生や先輩は「動物病院業界の未来は暗い」って言うけど、実は明るいかもしれないと感じる学生さんが増えるかもしれませんね。
西川:大学の先生から小動物臨床の暗い話を聞いて将来に不安を覚え、臨床を諦めてしまう学生さんも多いようですが、苦労はあれど明るい部分もあると思いますので、暗い情報ばかりでなく、明るい情報が伝わる機会を増やせるといいなと思っています。
動物病院の獣医師の離職率が高いのはなぜか
西川:動物病院は離職率の高い職場ですが、別の病院に転職するだけでなく、動物病院業界から離れて他業種に転職してしまうケースも多いですよね。正直、せっかく獣医師になったのにもったいない気がするのですが、やはり先ほど先生方のお話にもあった給与面での不安が大きいのでしょうか?
B先生:最近は条件が良い病院も増えてきたようですが、動物病院業界の体質の古さからか、「勤務医は修行の身分なので給料は安くていい」と考えている院長先生もまだいて、給与面で不安を感じている勤務医は多いと思います。
A先生:自分の周りで言えば、年齢的に結婚する獣医師が増えてきて、「この給料で家族を養えるのか?」と経済的な不安から他業種への転職を考える人が多いかな。あと、パワーハラスメントを受けて辞めてしまう人も結構いて、業界全体が古い体制というか、時代に即していない部分があるのかもしれません。
西川:社会人になると入ってくるお金は増える一方で、税金や生活費などはすべて自分で支払わなければならなくなるので、お金に関して一気に現実的になり、自分が家庭を持った場合に養えるだけ稼げるかと不安になるのは自然な流れですよね。ただ、経済面だけが離職の理由であれば、開業するか、給料の高い病院に転職するという選択肢もあると思いますが、公務員や企業など、他業種へ転職される方も多い。動物病院の獣医師を続けることはそんなに厳しいことなのでしょうか?
A先生:私の実家は獣医師が父一人の動物病院なのですが、自分の代わりがいないプレッシャーのなか休みなく働き続ける父の背中をずっと見ているなかで、自分も将来こうなるのかなと、働き方に不安を覚えることは多かったです。
B先生:A先生がおっしゃるとおり、働き方への不安はほとんどの獣医師が感じていて、かつ、動物病院での仕事を続けたいと思っている獣医師が目を逸らしている部分だと思います。特に卒業から3年以内の勤務獣医師は、給料が安いだけでなく、休みの日を研修に行くか勉強に充てているため、休みはないのに給料が安い生活が続き、業界自体に嫌気が差してしまうケースが多いように感じます。最近は働き方が過酷な病院だけではなくなってきているようなので、就職先を間違えなければすぐに臨床から離脱してしまう獣医師は減るかもしれませんね。
A先生:そうですね。最近の業界の動向を見ていると、予約制の病院が増えているなど作業の効率化を図る傾向にあって、長時間働きっぱなしだった以前とは変わってきているように思います。獣医師も昔はほとんどいなかったフリーランスの方も増えていて、いろんなところで効率化を図ろうとしている様子があるので、働き方についてはこれから改善されていくのかもしれませんね。
西川:動物病院業界から他業種に転職した獣医師が、戻ってくることはないのでしょうか?
A先生:他業種を経験するともう戻れないって聞きますよね。動物病院に勤めていた頃は、仕事の日に頭も体力も使い果たして、少ない休日でなんとか体力を回復させる生活だったのが、転職先にもよりますが、一般企業に転職した後は帰宅時間が早く、休みも多く、残業代や休日出勤代はちゃんと支払われる。この違いを経験してしまうと、もう動物病院業界に戻るのは難しいのかもしれません。
西川:給与面以外でまだまだ改善の余地はあるということですね。逆に、他業種から動物病院業界に転職する獣医師の方はいないのでしょうか?
A先生:友人に一人います。大動物の獣医師をしていて、大変さや経済的な不安など、いろいろ私が思うことを話したうえで、覚悟をもってこの業界に転職してきたようですが、2年くらいで「一生続けるのは難しいかも」と言っていて……。どれだけ業界が成長していて給料が多少上がったところで、仕事のキツさ、休日出勤や診療終了時間間近の急患など、どうしても自己犠牲の精神がないとできない面がある仕事だと思うので、かなりの覚悟がないと難しいのかなと最近感じています。
B先生:動物病院業界は、外から見るのと中から見るので大きな認識の違いがありますよね。自分自身、動物病院業界に入ってここまで将来的な心配をするとは思っていませんでした。正直、ネガティブな面もありますが、チャンスも転がっている業界なので、自分から行動を起こせばいい未来があることを、学生さんたちにもっと伝えてあげたいなと思っています。
動物病院の獣医師を長く続けるために必要なことは?
西川:動物病院業界を早くに離脱して他業種に転職する先生がいる一方で、長く続けている先生もたくさんいらっしゃいます。基本的に、スタート時には皆さん長く続けたいと思って就職したのだと思いますが、動物病院業界で長く続けている方の特徴や、お二人が今されていることはありますか?
B先生:お金の面で言えば、開業志向があるならば、臨床現場に出て5年以内と早めに開業してうまく行っているパターンをよく見ます。逆に開業志向がない獣医師で勤務医として長くやっていきたい場合は、私の周りで言えば、専門を身につけて大きな病院や大学で働くことを目指している方が多いですね。
西川:B先生も神経病学の専門性を高めるためにアメリカで研究をされているわけですよね。
B先生:そうですね。業界的に同じ病院に長く勤める獣医師は少ないですし、長く勤めたからといって必ずしも給料が大きく上がるわけではないので、自分の価値を上げるような武器を身に着けるべきなのかなと思っています。
西川:学生さんと話していると海外で勉強することに憧れを抱いている方が一定数いるのですが、昔と比べて海外に勉強しにいく獣医師が増えている一方で、全員が全員、かけた投資の分、利益を享受しているかというと、どうなのかなと思うことがあります。B先生から見て、動物病院で働く獣医師がアメリカで学ぶ価値はどこにあると思いますか?
B先生:自分は動物病院の獣医師としてというよりは研究者としてアメリカに学びにきているので、どこまで参考になるかはわかりませんが、周りにいるアメリカの専門医を取りにきた獣医師や、アメリカに小動物臨床の勉強をしにきている獣医師の話を聞いた感覚では、開業志望であればアメリカに学びに来るよりも早く日本で開業した方がいいと思います。アメリカで学べる獣医療と日本の開業獣医師に求められる獣医療は必ずしも一致していませんし、実は手術などは日本の方が技術は高いんですよね。アメリカで学びたいのであれば、目的意識をしっかり持たないと、時間とお金をかけた意味がなくなってしまうこともあるのではないでしょうか。
西川:なるほど。A先生の周りには、アメリカに小動物臨床の勉強をしに行く方はいますか?
A先生:研究のためにアメリカに行きたいと考えている人はいますけど、臨床を続けるうえでアメリカに学びに行きたいと考える人はほとんどいないですね。研究のためであれば意義があると思うのですが、海外で臨床経験を積むことや、海外の専門医や認定医をとることの意義はどこまであるのかなと、個人的に疑問が残ります。というのも、日本も専門医制度や認定医制度が整ってきていますし、日本の専門医・認定医だけで飼い主さんの安心感は十分得られると思います。また、臨床経験についても、海外の小動物臨床の知識が日本の犬猫にそのまま当てはめられるわけではないので、開業に向けて海外で臨床経験を積む意味はあまりないように思います。
西川:開業をするにあたって海外に学びに行く意義はあまりないという考えは、臨床現場で働くうちに気づくものなのですか? 獣医学生の中には海外で学ぶことに憧れを抱く方も結構いるのですが、卒業後にいなくなるのはどうしてなのでしょう?
A先生:学生の海外への憧れはぼんやりしているというか、実際に卒業して日本の動物病院で働いていくうちに、学びは日本にいてもできるということがわかるのかもしれませんね。
西川:B先生は日本に戻られたら専門医・認定医として臨床を続けられるのですか?
B先生:アメリカにはまだ1年以上いる予定ですが、日本の研究職のポストがあけば、そこに入りたいと思っています。ただ、研究職に就いたとしても、臨床は続けたいと思っています。
西川:A先生は学生時代からいろいろ他分野に渡ってご活躍ですが、この先は動物病院の獣医師以外のお仕事も考えていらっしゃいますか?
A先生:フレキシブルに考えたいなと思っていて、生涯、動物病院の獣医師を続けるかについては模索中です。今勤めている動物病院も、比較的時間に自由があるので仕事以外にもいろいろ取り組みやすいかなと思って勤務先に選んだわけで、もしかしたらどこかで一旦切り上げる時期が来るかもしれませんし、このまま続けているかもしれません。動物病院でしか働けないと思っている獣医師が多いように思いますが、ガチガチに固まらず、いろいろな選択肢の中から選んでいけたらなと思っています。
就職活動中の獣医学生に伝えたいこと
西川:先ほど、B先生から、卒業後3年ほどの獣医師で、休みが少ないなか低賃金で働いている後輩がいるとお話しがありましたが、そういった方たちは動物病院から他業種へ転職したいと考えていたりしないのですか?
B先生:別の動物病院に転職することは考えていても、動物病院自体を辞めることは考えていなさそうですね。というのも、自分が話を聞いた獣医師たちは、専門的なスキルを得るという目的意識があって、その業界で名の通っている動物病院に勤めているので、彼ら自身は給料が安くて休みが少ないことに納得しています。納得しているからといって低賃金が許されるわけではないとは思いますが、逆に彼らのように「大変でも専門的なスキルを身につけるためにこの病院にいる!」というはっきりした目的意識がない場合は、業界自体に嫌気がさしてしまうケースもあるかもしれませんね。そう思うと、やはり就活では目的意識をしっかりもって病院を探すのが大切だと思います。
西川:将来の目標が明確に定まっていて、そのために価値を見出しているのであれば低賃金で休みが少なくても働ける人もいますが、多くの学生さんはそうではないので、そういった学生さんたちに役立つような情報提供をしていきたいと思います。A先生はいかがですか?
A先生:自分の周りも含めて、他の選択肢をろくに調べもせずに就職する業界を決めてしまっている獣医師がほとんどですが、いろいろな可能性があることを知ったうえで動物病院業界に進んだ方が、将来的にはいいのではないかと思います。ここ数年の国家試験の結果を見ても、岡山理科大に獣医学部が新設されたことで国家試験の受験者数が増えたのに対し、合格者数は変わらないので、合格率が下がっていますよね。この狭き門を通り抜けてようやく獣医師になれたのに、働きはじめてすぐに辞めてしまうのはもったいないと思うので、もう少し危機感を持って就職活動に挑んだ方がいいのかなと思います。
西川:内定を取るのが難しくない分、就職先選びに失敗して業界自体から去ってしまう獣医師が多いので、大学受験、大学での勉強、国家試験を経てせっかくたどり着いた夢を数年で手放す獣医師を減らせるよう、学生さんたちが良い就職活動をできるよう、これからもサポートしていきたいと思います。
べテリナリオが運営している「動物病院就活実習ツアー」では、実習先病院の提案、申し込み、日程調整から宿泊先の手配まで、無料で手厚くサポートいたします!
300名以上の学生の声から生まれ、95%以上の学生が「参加したい」と回答した獣医学生のためのサービスです。
交通費や宿泊代は全額協賛病院様が負担してくれますので、費用の心配はいりません。
もちろん、サポートは実習後、就職が決まるまで続けさせていただきます。
実習に興味はあるけどどの病院に行ったらいいのかわからない、申し込むのに緊張する、費用やスケジュールの調整、準備に不安を感じている学生の方も安心してご参加ください。
300名以上の学生の声から生まれ、95%以上の学生が「参加したい」と回答した獣医学生のためのサービスです。
交通費や宿泊代は全額協賛病院様が負担してくれますので、費用の心配はいりません。
もちろん、サポートは実習後、就職が決まるまで続けさせていただきます。
実習に興味はあるけどどの病院に行ったらいいのかわからない、申し込むのに緊張する、費用やスケジュールの調整、準備に不安を感じている学生の方も安心してご参加ください。