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対談シリーズ【第2回】 若手獣医師に聞く動物病院業界のリアル

猫を抱える獣医師
臨床現場を知る2名の若手獣医師に、実際に働いて感じることや就職活動中の学生に伝えたいことなどを伺う対談シリーズ。

前回は動物病院業界の離職率がなぜ高いのか、続けている獣医師がしていることは何か、就職活動で大切なことは何か、などをお話しいただきました。

今回は、大学卒業後に感じた獣医療現場の理想と現実、獣医師が稼ぐことについて、獣医師として稼ぐには、良い動物病院に就職するために実習時に何を見るか、獣医療以外にも勉強が必要だと思う分野などを語っていただきました。
■A先生(仮)
2020年に酪農学園大学を卒業後、京都府内の1.5次病院に就職。予防などの0.5次診療から橈尺骨骨折整復術の手術など、幅広く獣医療を経験後、上京し現在は都内の1次病院にて分院長を務める。獣医師として小動物臨床に従事する傍らwebライターなど様々な仕事の経験も。

■B先生(仮)
2015年に大阪府立大学卒業後、大阪府内の1次動物病院に就職。その後、岐阜大学大学院博士課程へと進学し、神経疾患を専門に研究と二次診療を両立して行う。現在は神経疾患についてさらに深く研究を行うためアメリカに留学中。臨床と研究の二刀流を目指して、日々勉強に励んでいる。

大学卒業後に感じた獣医療現場の理想と現実

卒業の季節
西川:今回は当社の就活実習ツアーにご参加いただいた獣医学生たちからリクエストのあった話題について、いろいろお聞きしたいと思います。まずは、大学を卒業後に感じた動物医療現場の理想と現実のギャップについて、就活中の学生さんに伝えたいことがあれば教えてください。
A先生:必ずしも自分がやりたい治療をできるわけではないことですかね。飼い主さんにお話をする際に、選択肢をいくつか用意したうえで自分が勧めたい治療法を強めにお話ししていますが、別の選択肢を選ばれてしまうことも多くて。飼い主さん側にも事情はありますし、考え方はそれぞれなので仕方がないのですが、「もっとできるのに……」と歯がゆい思いをすることが、学生時代に思っていたよりも多かったですね。
西川:必ずしも自分の思うベストな治療法を飼い主さんに選んでもらえるわけではないというのは、生の動物医療現場ならではのリアルな悩みですね。
A先生:診療方針や飼い主さんがどこまで求めるのかは、地域や動物病院によっても違うので、就職先によって多少の違いはありますが、何かしら理想と現実のギャップを感じることは多いとわかっておいた方がいいと思います。
西川:B先生はいかがですか?
B先生:社会的に安定した職業だと思っていた一次臨床の勤務獣医師が、収入面でも勤務体制でも、学生時代に思っていた以上に厳しかったことでしょうか。学生時代にも周りから「臨床は厳しい」と何度も言われてきましたが、実際に働き始めるまでピンと来ていなかったというか。実際に働き始めて、何も考えずに長く続けられる業界ではないかもしれないと思うようになりました。
西川:B先生は今、アメリカの大学で研究をされていますが、獣医師として将来稼げるようになるための準備期間という認識で合っていますか?
B先生:そうですね。自分は、自分のやりたいことをしながら、それに見合うお金が得たいという思いを叶えるために、アメリカに勉強しに来ました。自分を含め、海外に勉強をしに来る獣医師の多くは、興味のある分野への純粋な知識欲を満たすために来ているので、稼ぐ目的で海外に勉強をしに来たと言われると、少し違うかもしれません。ただ、海外で博士号や専門医を得て、日本の動物病院に高い給料で雇われたり、執筆や講演の仕事を得たりする獣医師は一定数いるので、海外で勉強することが結果的にキャリアアップにつながるケースはあります。自分も、今、アメリカで研究していることで、最終的にお金がついてくるといいなとは思っています。
西川:獣医の先生は知識欲が高い純粋な方が多いですが、それゆえに時間とお金を投資して学んだものが稼ぎに結びついていないケースも少なくないですよね。学生さんと話していても、動物が好きで、動物を助けたいという純粋な心から獣医師を目指した方がほとんどなのに、就職活動になると急に給与面や福利厚生などにシビアになるというか。もちろん、してきた努力に相応の対価を求めるのは当然のことですが、何をもって給料が高いか、福利厚生がいいとはどういうことかをわかっていない方が多く、少し危うさを感じるときもあります。
B先生:学生たちは「動物病院の勤務獣医師は給料が安くてキツい」と聞かされているので、就職となるとシビアに選ばなければと思うのでしょうね。
西川:業界全体で見れば売り上げは上がっていて、給料も昔と比べて上がってきてはいます。東京都の平均で言えば月収30万円ほど、地方になると初任給から年収が400万円台中盤〜後半の動物病院もあって、同世代の平均と比べても獣医師の給料は高い水準にいると思うのですが。
B先生:本音を言えばもっともらってもいいと思いますが、大学では「たとえ初任給は高くても、その後上がらない」という話もよく聞きます。ただ、そうした話がいつのデータに基づいたものかはわからないので、今の社会全体の給与水準と比べて動物病院獣医師の給料はどうなのか、初任給からどのように上がるのかなどを学生たちに聞かせてあげると良いかもしれませんね。
西川:お金の話は、雇用主である院長先生ですら把握していない方も多いので、今後、そういった話を学生さんたちにしていきたいと思います。

獣医師にとって稼ぐとは?

獣医と犬
西川:給与面のお話になりましたが、動物病院の勤務獣医師は経済的にも肉体的にも厳しいと言われるなかでも、実際に稼いでいる獣医師も一定数存在しています。稼ぐ獣医師と稼げない獣医師の違いというか、そもそも稼ぐことに対して先生方はどのように思われているのでしょう? 医療もそうですが、世間的に獣医師が稼ぐことに否定的な意見もあるようですが。
A先生:個人的には、しっかり仕事をした分しっかり稼ぐのはいいことで、獣医学生にとっても就活のモチベーションになると思います。大学で6年間勉強して国家試験を経てようやく獣医師になれたのに稼げないとなると、何のために勉強してきたのだろうってなりますよね。ただ、現状、十分な稼ぎを得られている獣医師は少ない印象を受けていて、どこかしら「医療だから仕方がない」と思われている面もあるのかなと思います。
西川:医療に対してもそうですが、「命を扱う尊い仕事なのだから、文句を言わずに長時間働くのが当たり前」と思われている面はありそうですよね。提供される側も、「医療は稼ぐものではない」という思い込みが強いイメージがあります。
A先生:そうですね。人の医療と比べて保険が乏しいので、どうしても請求する診療費が高額になってしまうこともあって、レビューに「拝金主義」と書かれてしまうことも多々あります。自由診療なので他の動物病院と金額を揃えることができないですし、金額の高ければいい病院ということでもない。ただ、「命をお金に換えるな」的な思いは強く感じます。
B先生:自分も、獣医師になるまでにしてきた努力に見合うくらいの給料はもらうべきですし、稼げる方法があるのであればどんどん実施するべきだと思います。どれだけ稼げるのかは、自分が頑張ったことに対する目に見えた評価なので、対価に見合ったお金をもらうことは悪いことではありません。
西川:日本は欧米と比べて金銭での評価に少しネガティブな面がありますが、B先生は今アメリカにいて、稼ぐことに対して日本人とアメリカ人で認識の違いは感じますか?
B先生:アメリカ人は日本人よりも対価に見合ったお金をもらうことに対してシビアに考えているので、安い給料では働かない印象があります。同じ研究職でも給料の高い職場には現地のアメリカ人がたくさん就職していますが、給料は安いけど今頑張れば今後活躍できるよ系の研究室にはアメリカ人はあまりいません。「修行の身だから給料は安くても我慢して頑張る」的な精神は、日本人ほどはないように感じます。
A先生:日本でも、卒業してすぐなら「修行中の身だから仕方ない」と思う獣医師がいるかもしれませんが、3〜4年目くらいになり獣医師として力がついてくると、見合った対価が欲しいと思うようになり、給与面をより重視するようになりますよね。
B先生:そうですね。もしかしたら給料は少なくても好きな仕事をやっていられれば幸せだと思う獣医師もいるかもしれませんが、そう思っている人が多ければ大学卒業後に動物病院に就職した獣医師の半数以上が臨床現場を離れるような状況にはならないと思います。
西川:動物病院業界には獣医師の給与面での問題がまだまだありそうですね。

動物病院の獣医師が稼ぐには

診察を受ける猫
西川:さきほどB先生から、給与面と勤務体制から、動物病院の獣医師は何も考えずに長く続けられる仕事ではないとのお話がありました。獣医師が稼ぐことは相応の対価なので当たり前のこととも思いますが、対価に見合った稼ぎを得られていない獣医師も多くいいます。いろいろな先生にお話を聞くと、稼ぎ方には主に2種類あって、ひとつは獣医療行為のレベルを上げて高い技術への対価として単価を上げること、もうひとつは検査機器や特殊な治療機器など設備を揃えて検査や治療の選択肢を増やすこと。先生方は、具体的に稼げる獣医師になるためにはどうすればいいと思いますか?
B先生:獣医療行為に対して見返りを求めすぎると飼い主さんがついてこなくなってしまうので、自分が開業するとしたら獣医療行為以外の収入源を得ようとするかもしれません。例えばカフェやトリミングサロンを併設して、そちらの集客に力を入れるとか。
西川:A先生はいかがですか?
A先生:動物病院としての収入アップで言えば、予防医療に力を入れることでしょうか。飼い主さんとしても、病気の早期発見や予防につなげられるのでウィンウィンだと思います。また、どの病院でも来院回数を増やす工夫が重要ですね。あとはパターン化している診療にどうプラスアルファをつけるか。どの動物病院も基本的にやっていることは同じだと思いますが、例えば皮膚病の症例に対して、繰り返す場合は原因を探り、飼い主さんにしっかり説明したうえでプラスアルファの検査や治療を進める。このことで飼い主さんの満足度も上がりますし、病院としての収入も上がるので、お互いにとって良い結果につながると思います。
西川:なるほど。開業以外で稼ごうとする場合は、みなさんどうしているのでしょう?
A先生:勤務先とは別の動物病院にアルバイトに行く方が多いですね。私はライター業や株など、獣医療以外にもいろいろ挑戦していて、友人にも勧めてはみるのですが、獣医療以外のことをするのはハードルが高いようです。
西川:獣医である時間を増やすことで稼ぎたいということですね。ちなみに、B先生のように専門分野を持ったり、スキルを高めたりするなど、単価を上げるために何かされている方はいますか?
A先生:認定医としてフリーランスで麻酔に専念している同期はいます。
西川:A先生は専門医や認定医は得る予定はありますか?
A先生:向き不向きというか、自分はジェネラリストとして一通りできる方が最終的には稼げるタイプかなと思っているので、今のところ取得する予定はありません。
西川:B先生は専門性を身につけることが最終的に獣医師としての稼ぎを増やすことにつながればとおっしゃっていましたよね。
B先生:獣医師としての単価だけでなく、専門分野を持つことで獣医師を顧客にセミナーや専門医外来で稼ぐことも目指しています。セミナーの参加者に自分の持つ専門知識を教える対価としてお金をもらうので、ウィンウィンの関係かなと。
西川:専門分野や実績を持つことで同業者を顧客にするビジネスモデルは、医療や経営コンサルなど他業種においても一般的な稼ぐ方法の一つですね。

新卒で就職するなら勉強熱心な動物病院

獣医と猫
西川:就活中の獣医学生にとって、金銭面も重要ですが、長いキャリアを考えると就職先の動物病院でどれだけ成長できるのかも重要ですよね。獣医師には医師のような研修医制度がないので、新卒で就職した動物病院によって3〜4年目の獣医師のスキルに差が出てしまうと聞きます。先生方から見て、最初の就職先を選ぶポイントなどあれば教えてください。
B先生:院長先生が勉強熱心かをよく見た方がいいと思います。院長先生があまり勉強熱心ではない病院は、勤務獣医師も勉強熱心ではない印象を受けました。勉強することをやめてしまうと成長は止まってしまうので、院長先生が勉強熱心そうな動物病院を積極的に選ぶようにしていました。
西川:なるほど。勉強熱心かどうかはどのように判断していましたか?
B先生:定期的に獣医学雑誌を購読しているか、獣医学書がたくさんあるのかを第一に見ていました。あとは学会やセミナーに参加しているのか、するとしたら参加費の補助はあるのかですね。学会で発表しているのかも勉強熱心かどうかの一つの指標になると思います。
A先生:私も学生時代、実習でいろいろな動物病院に行きましたが、獣医学雑誌を定期購読していて獣医学書を積極的に購入している動物病院の方が勉強の機会は多いと思って見ていました。
西川:学生たちからは外部の認定医や専門医が来ている病院に一定の人気が集まるのですが、実際、外部の認定医や専門医が来ることは、勤務獣医師の学びにつながるのでしょうか?
B先生:外部から専門知識を持った獣医師が来るとは、勤務獣医師にとって学びの機会が増えるので、就職先を選ぶ基準に入れること自体は間違っていないでしょう。ただ、その先生は教えに来ているわけではなく診療をしに来ているので、その先生から何をどう学ぶのかは本人次第だと思います。

必要な勉強は獣医療だけではない

走る犬
西川:獣医師にとって勉強というとやはり獣医学の分野で、それ以外の分野、例えば経営やビジネスマナー的なものについては、あまり意識されていない印象があります。院長先生の中にも、自病院をより良いものにするために経営面での勉強をされている方もいれば、そうではない、むしろ否定的な方もいて、差が激しい印象を受けます。獣医師は経験年数やスキルが獣医師としての力量の評価基準になりますが、それ以外の、例えば人間関係を円滑にするようなマネジメントスキルや、マナーについてはどういった認識がされているのでしょうか?
A先生:接客業なのでビジネスマナーは大切だと思います。マナーの面で不安がある獣医師は、やらないのではなくて単純に知らないだけだと思いますが、相手を不快にさせてしまうこともあるので、学びは必要ですよね。接遇については、最近になってウェブセミナーや学会でのコミュニケーションセミナーなど、学びの機会は増えてきている印象を受けています。
B先生:大学でも、最近では飼い主さんとのコミュニケーションについての授業があるので、獣医療以外での勉強の重要性が認識されてきているように思います。マナーについては、自分は学生時代に部活やアルバイト先で上下関係やマナーを学ばせていただいたのですが、そうした機会がなかった方が飼い主さんと揉めてしまったというケースはよく聞きます。卒業から1〜2年目は特に獣医療の勉強が優先されますが、数ヶ月に1回程度でもいいので、ビジネスマナーを学ぶ機会はあった方がいいと思います。
西川:獣医師の場合、獣医療以外については個人の裁量に任されている感がありますよね。ただ、重要ではあるけれどもそれに気づいていない動物病院も多いので、まずは必要性を認識させないといけないですね。
今日は色々お話を聞かせていただきありがとうございました。
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